奈良県 > 葛城・御所 > 不動院(大和高田市)

不動院(大和高田市)

(ふどういん)

聖徳太子による建立の伝承が息づく寺

不動院は、奈良県大和高田市本郷町に所在する、真言宗御室派の寺院です。市街地の中にありながら、静かで落ち着いた空気に包まれた境内は、古くから地域の人々の信仰を集めてきました。本堂は国の重要文化財に指定されており、建築史・仏教美術の両面からも高い評価を受けています。

不動院の創建と伝承

不動院の創建については、聖徳太子の建立とする伝承が残されています。伝えられるところによれば、かつてこの地には三町(約327メートル)四方の広大な敷地が広がり、七堂伽藍を備えた壮大な寺院で、畿内でも有数の霊地であったといわれています。また、聖武天皇の治世には、光明皇后によって再建されたとも伝えられています。

しかし、これらの伝承を裏付ける確実な史料は確認されておらず、学術的には未解明の部分も多く残されています。今後の調査や研究によって、さらなる歴史像が明らかになることが期待されています。

室町時代に建立された本堂の由来

現在の不動院の歴史を具体的にたどることができるのは、本堂の棟木に残された墨書によってです。それによると、文明15年(1483年)、高田城主であった当麻為長(とうま ためなが)によって、「證菩提寺(しょうぼだいじ)」という寺号のもとに本堂が建立されたことが分かっています。この建立は、当麻氏一族の菩提を弔うためのものであったと伝えられています。

当麻氏滅亡後の詳細な沿革については不明な点が多いものの、江戸時代中頃には、村人たちが管理する村堂となっていたようです。また、慶長年間から天和年間にかけては、一時的に米倉として利用された時期もあったと伝えられ、寺院としての役割を失いかけた時代も経験しています。

明治6年(1873年)には、廃仏毀釈の影響などを受けて一度廃寺となりましたが、大正5年(1916年)頃に再建されました。その後、大正11年(1922年)に吉野郡野迫川村で廃寺となった不動院の寺号を譲り受け、現在の「不動院」という名称となりました。

本堂(大日堂)の建築的価値

不動院の中心となる本堂は、五間四面・寄棟造・本瓦葺という格式の高い形式を備えています。本尊に大日如来を祀ることから、一般には「大日堂」とも呼ばれています。

この本堂は、室町時代中期の建築様式をよく残しており、大正14年(1925年)に国の重要文化財に指定されました。密教系寺院に見られる平面構成を持ちながら、内部は和様の要素が強く、落ち着いた雰囲気を漂わせています。

一方、外部意匠には、舟肘木を用いた組物や、飛貫・腰貫を縦横に通す構造、桟唐戸を吊り込む手法などが見られ、大仏様の影響を色濃く受けています。これらの特徴は、大和平野西部から南部にかけて多く見られるもので、地域色を示す貴重な建築例といえます。

建立以降、修理は幾度となく行われてきましたが、いずれも部分的な補修にとどまっており、後世の大きな改変を受けていません。そのため、創建当初の姿をよくとどめている点も、高く評価される理由の一つです。

本尊・木造大日如来坐像

不動院の本尊は、木造大日如来坐像です。智拳印を結ぶ金剛界大日如来の姿で、左足を上にして結跏趺坐する独特の形式をとっています。密教彫刻としては、現図曼荼羅の定型に必ずしも従わない、非常に個性的な作例です。

制作年代は鎌倉時代前期と考えられており、寄木造が一般化する以前の古式な構造を残す点でも注目されています。本堂の建立年代よりも古く、当麻氏の信仰や動向を考えるうえで重要な手がかりを与えてくれる仏像です。

こうした歴史的・美術的価値が認められ、令和3年(2021年)6月24日に、大和高田市指定有形文化財となりました。市内に現存する鎌倉時代の優れた仏像として、貴重な存在です。

紫陽花の名所としての不動院

不動院は、歴史や文化財だけでなく、紫陽花の名所としても親しまれています。毎年6月から7月にかけて境内には色とりどりの紫陽花が咲き誇り、「不動院(大日堂)の紫陽花」として多くの参拝者や観光客が訪れます。

歴史ある本堂と、しっとりと咲く紫陽花の取り合わせは風情に富み、初夏の大和高田を代表する風景の一つとなっています。

不動院の鐘にまつわる伝説

不動院には、地域に語り継がれてきた鐘にまつわる不思議な伝説があります。かつて本郷の不動院には鐘がありましたが、年貢の負担により、郡山の高田口にある寺へ売られたといいます。

ところが、その寺の和尚は毎晩のように奇妙な夢を見るようになります。「ここから高田の不動院が見えない。もっと高いところへ移してほしい」と鐘が語りかけてくるというのです。鐘はさらに山城国加茂の高田へと移されますが、そこでも同じように「奈良の山に遮られて大和の高田が見えない」と夢に現れます。

不気味に思った和尚は檀家に相談し、ついには鐘の銘を削り取って供養することにしました。魂を抜かれた鐘は、無欲な存在となり、以後は澄んだ美しい音を響かせるようになったと伝えられています。

歴史と物語が息づく不動院

不動院は、国の重要文化財である本堂と、市指定文化財の大日如来坐像を擁する、歴史的にも文化的にも価値の高い寺院です。そこには、武家の興亡、地域の信仰、そして人々の語り継いできた物語が幾重にも重なっています。

大和高田を訪れた際には、ぜひ不動院に足を運び、静かな境内で歴史の息吹と信仰の深さを感じてみてはいかがでしょうか。

Information

名称
不動院(大和高田市)
(ふどういん)

葛城・御所

奈良県