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廣瀬大社

(ひろせ たいしゃ)

廣瀬大社は、奈良県北葛城郡河合町川合に鎮座する、古代より水と農耕を司る神を祀ってきた由緒正しい神社です。式内社の中でも特に格の高い名神大社に列せられ、さらに二十二社(中七社)の一社として、国家的な祭祀に深く関わってきました。旧社格は官幣大社で、現在も神社本庁の別表神社として篤い崇敬を集めています。

旧称は「廣瀬神社」といい、その名の通り、奈良盆地を流れるほぼすべての河川が合流する地点に鎮座していることから、古来より水の神・農耕の神として信仰されてきました。清らかな水をもたらし、洪水や旱魃といった災いを鎮め、五穀豊穣を守る御膳神として、朝廷から庶民に至るまで、幅広い信仰を受けてきた神社です。

御祭神と神格

主祭神

若宇加能売命(わかうかのめのみこと)は、別名を大忌神(おおいみのかみ)ともいい、廣瀬大社では「廣瀬大忌神」と称されています。社伝によれば、伊勢神宮外宮に祀られる豊宇気比売大神や、伏見稲荷大社の宇加之御魂神と同神とされ、水と食を司る神格を持つと伝えられています。

若宇加能売命は、大和盆地の水の流れを統べ、悪水を良水に変え、風雨の調和をもたらし、稲を健やかに育てる力を持つ神として信仰されてきました。そのため、廣瀬大社は古くから治水・農耕・国家安泰を祈願する重要な神社であったのです。

相殿神

櫛玉命(くしたまのみこと)は、社伝では饒速日命にあたるとされます。廣瀬大社の社家である樋口氏は、物部氏の系譜に連なるとされ、境外には饒速日命を祀る社も残されています。

穂雷命(ほのいかづちのみこと)は、雷の神として、雨をもたらし農作物を育てる力を象徴する存在であり、若宇加能売命とともに祀られることで、水と雷、すなわち自然の循環を守る神格が表されています。

創建と古代史における廣瀬大社

廣瀬大社の創建は、社伝によれば崇神天皇の御代とされています。広瀬の河合の里長であった廣瀬臣藤時に神託が下り、水足池と呼ばれる沼地が一夜にして陸地となり、橘の木が数多く生えたことが天皇に奏上され、その地に社殿を建てて祀ったのが始まりと伝えられています。

『日本書紀』には、天武天皇4年(675年)に「大忌神を廣瀬の河曲に祀らはしむ」との記述があり、これが廣瀬大社における国家祭祀の確かな記録として残されています。この記述は、同年に龍田で風神を祀った記事と対をなしており、廣瀬の水神と龍田の風神をもって、国家の風水を調え、五穀豊穣と国の安泰を祈ったことがうかがえます。

延喜式と名神大社としての地位

延長5年(927年)に成立した『延喜式』神名帳には、「廣瀬坐和加宇加乃売命神社」として記載され、名神大社に列するとともに、朝廷の月次祭・新嘗祭において幣帛を受ける格式高い神社であったことが明記されています。

また、平安時代を通じて神階は昇進を重ね、最終的には正一位という最高位にまで達しました。このことからも、廣瀬大社が国家にとっていかに重要な存在であったかがよく分かります。

中世から近世へ―試練と再興の歴史

室町時代には、廣瀬大社は500町余りの広大な神領を有していましたが、永正3年(1506年)、細川政元の家臣による焼き討ちに遭い、宝物や古文書の多くが失われました。さらに戦国時代には神領が没収されるなど、幾度も困難に直面します。

それでも地域の人々の信仰は絶えることなく、江戸時代には社殿の再建や祭祀の復興が進められ、現在の本殿は正徳元年(1711年)に再建されたものです。

境内と社殿の見どころ

廣瀬大社の境内は、深い緑に包まれた鎮守の森に囲まれています。一の鳥居から二の鳥居へと続く長い参道は、高い木立がトンネルのように覆い、歩くごとに心が静まり、神域へと導かれていく感覚を味わえます。

朱塗りの社殿は春日造の様式を伝え、厳かな中にも華やかさを備えています。初夏には菖蒲が境内を彩り、水の神を祀る社にふさわしい清涼感あふれる景観が広がります。

建造物

廣瀬大社の境内には、以下の主要な建造物があります。

砂かけ祭―廣瀬大社を代表する神事

毎年2月11日に行われる例祭「御田植祭(砂かけ祭)」は、廣瀬大社を代表する神事として全国的に知られています。この祭りは、大忌祭の御田水口祭礼に由来し、砂を雨に見立てて豊作を祈願する、きわめて古い形を残した農耕儀礼です。

拝殿前の広場を田に見立て、田人や牛に扮した人々が田植えの所作を行い、それに合わせて参拝者も加わり、激しく砂をかけ合います。砂を多く浴びるほど、その年は雨に恵まれ、豊作になると信じられており、また砂がかかることで厄除けにもなるとされ、多くの参拝者で賑わいます。

文化財と信仰遺産

本殿は奈良県指定有形文化財に指定されており、また「廣瀬神社の砂かけ祭り」は河合町指定無形民俗文化財として大切に守り伝えられています。これらは、廣瀬大社が単なる観光地ではなく、今なお生きた信仰の場であることを物語っています。

現地情報と参拝案内

所在地:奈良県北葛城郡河合町大字川合99

交通アクセス:JR関西本線・法隆寺駅より徒歩約30分、近鉄田原本線・池部駅より徒歩約35分。

奈良盆地の水の流れとともに歩んできた廣瀬大社は、自然と人、そして国家の祈りが重なり合う特別な場所です。参拝を通じて、その悠久の歴史と、水の神がもたらす静かな力を、ぜひ体感してみてください。

Information

名称
廣瀬大社
(ひろせ たいしゃ)

葛城・御所

奈良県