奈良県 > 葛城・御所 > 柿本神社(葛城市)

柿本神社(葛城市)

(かきのもと じんじゃ)

歌聖・柿本人麻呂を祀る由緒ある社

柿本神社は、奈良県葛城市に鎮座する、万葉歌人として名高い柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)を御祭神とする神社です。人麻呂は『万葉集』を代表する歌人であり、後世には「歌聖」と称えられ、日本文学史において極めて重要な存在として知られています。この神社は、単なる史跡にとどまらず、和歌文化や信仰、地域の歴史と深く結びついた特別な場所として、多くの参拝者や文学愛好家を惹きつけています。

柿本人麻呂と葛城の地との関わり

柿本人麻呂は飛鳥時代、宮廷に仕えた歌人で、『万葉集』や『古今集』などに400首以上の歌が伝えられています。山部赤人と並び称され、「歌聖」として敬仰されてきました。地元には、人麻呂が持統天皇よりこの葛城の地に領地を賜り、実際に暮らしていたという伝承が残されています。

人麻呂が詠んだ葛城ゆかりの歌として、次の一首がよく知られています。

「春楊(はるやなぎ) 葛木山に立つ雲の 立ちても坐ても 妹をしそ思ふ」

この歌からは、葛城の自然の中で人麻呂が抱いた深い情愛と、風景への繊細な感受性が伝わってきます。こうした和歌の世界観そのものが、柿本神社の空気にも静かに息づいています。

神社の創建と改葬の由来

柿本神社の起源は、宝亀元年(770年)にさかのぼると伝えられています。人麻呂は神亀元年(724年)に石見国(現在の島根県益田市)で没したとされ、その遺骸を後にこの葛城の地へ改葬し、その傍らに「人麻呂堂」と呼ばれる堂宇が建てられたのが始まりとされています。

現在でも、本殿の脇には人麻呂塚が残り、歌人・人麻呂が実在の人物としてこの地に深く根付いてきた歴史を静かに物語っています。神体は、真済(しんぜい)の作と伝えられる人麻呂像であるとされ、長く人々の信仰を集めてきました。

影現寺との深い結びつき

柿本神社に隣接する影現寺(ようげんじ)は、斉衡2年(855年)または天安2年(858年)に創建されたと伝えられる神宮寺です。神仏習合の時代には、柿本神社と一体となって信仰を集めてきました。

明治時代の神仏分離を経た現在でも、両者の境内は連続しており、歴史的・精神的なつながりが今も感じられます。この独特の配置は、古代から近世にかけての日本の信仰文化を知る上で、非常に貴重なものといえるでしょう。

歌聖信仰と歌会の歴史

柿本人麻呂が祭神であることから、柿本神社は古くより和歌上達を願う人々の信仰を集めてきました。江戸時代には歌会が盛んに行われ、寛文10年(1670年)に編纂された『大和順礼集』には、

「柿本は歌よみ鳥の会所哉」

という一句が記され、当時の賑わいを今に伝えています。

また、江戸時代後期には、大和郡山藩主・松平信之が人麻呂を顕彰する石碑を建立したことを契機に、法楽歌会がさらに盛んになりました。幕末には国学者であり儒者でもあった岡本通理が社務所に仮住まいしていたと伝えられ、学問・文学の場としても重要な役割を果たしていました。

チンポンカンポン祭と年中行事

人麻呂の命日とされる旧暦3月18日には、五穀豊穣を願う神事が行われてきました。その際、影現寺の鐘や太鼓を打ち鳴らしたことから、この祭礼は「チンポンカンポン祭」と呼ばれるようになったといわれています。

現在では鳴り物は用いられていませんが、毎年4月18日に柿本神社と影現寺が合同で神事を執り行い、古来の伝統を今に伝えています。また、4月第2日曜日には春季例祭が行われ、地域の人々や参拝者で賑わいます。

境内の見どころ

柿本太夫人麻呂之墓碑

拝殿南側に建つ石碑は、天和元年(1681年)に松平信之によって建立されたものです。撰文は林整宇によるもので、人麻呂への深い敬意が感じられます。

万葉歌碑

境内には、人麻呂の代表歌の一つである 「春柳 葛城山に立つ雲の 立ちても居ても 妹をしそ思ふ」 を刻んだ歌碑があり、昭和52年(1977年)に建立されました。訪れる人々は、歌と風景を重ね合わせながら、万葉の世界に思いを馳せることができます。

自然と記念樹

境内には、筆柿、盲杖桜、八房梅などの樹木が植えられており、四季折々の自然が参拝者の目を楽しませます。文学と自然が調和した空間は、静かな散策にも最適です。

人麻呂信仰の広がり

平安時代後期以降、人麻呂は単なる歌人としてだけでなく、和歌上達に霊験をもたらす存在として崇拝されるようになりました。歌会では人麻呂の絵姿と歌を掲げて祈願する「人麻呂影供(えいぐ)」が行われ、その信仰は全国へと広がっていきます。

「ひとまる」という呼び名から、「火止まる」「人産まる」との語呂合わせで、防火や安産の神として信仰された例もあり、柿本神社は庶民の暮らしとも深く結びついてきました。

アクセスと参拝案内

近鉄御所線・近鉄新庄駅から徒歩すぐという、非常に訪れやすい立地にあります。葛城の歴史や万葉文化に触れながら、静かに心を落ち着けて参拝できる神社として、観光の合間にもおすすめです。

文学と信仰が息づく柿本神社

柿本神社は、柿本人麻呂という偉大な歌人の足跡を伝えるとともに、日本の和歌文化と信仰の歴史を今に伝える貴重な存在です。葛城の自然に抱かれたこの神社を訪れることで、万葉の時代から続く人々の祈りと詩心を、身近に感じることができるでしょう。

Information

名称
柿本神社(葛城市)
(かきのもと じんじゃ)

葛城・御所

奈良県