葛木二上神社(かつらぎふたかみじんじゃ/かつらぎにじょうじんじゃ)は、奈良県葛城市染野、二上山雄岳の山頂付近に鎮座する由緒ある神社です。古くは「二上神社」や「葛木坐二上神社(かつらぎにいますふたかみのじんじゃ)」とも称され、延喜式神名帳に名を連ねる式内社(大社)として知られています。現在は登山道の途中に静かに佇み、自然と信仰、そして歴史が重なり合う特別な場所として、多くの参拝者や登山者を迎えています。
葛木二上神社の祭神は、豊布都霊(とよふつのみたま)神と大国魂(おおくにたま)神の二柱です。豊布都霊神は、布都御魂神と同一視されることもあり、武力や霊威を象徴する神として古代から信仰されてきました。一方の大国魂神は、国土を守護する国津神の中心的存在とされ、人々の暮らしと深く結びついた神格です。
古記録である『神社要録』や『神祇志』には、それぞれ異なる神名で記されており、古代における信仰の多層性をうかがわせます。もともとは、二上山の雄岳と雌岳それぞれに男神・女神が祀られていたと考えられており、山そのものが神体であったという、山岳信仰の原初的な姿を今に伝えています。
葛木二上神社の創建年代は明らかではありませんが、二上山一帯は石器の材料となる讃岐岩(サヌカイト)の産地として知られ、旧石器時代から人々が暮らしていたことが確認されています。この地における信仰もまた、極めて古い起源を持つものと考えられています。
文献上の初見は、平安時代の史書『日本三代実録』貞観元年(859年)条で、当社に従五位上の神階が授けられたことが記されています。さらに『延喜式』神名帳には「大和国葛下郡 葛木二上神社二座」として記載され、大社に列せられていることから、国家的にも重要な神社であったことが分かります。
近世に入ると、葛木二上神社は「岳の権現」と呼ばれ、二上山の水を生活や農業に利用していた周辺の村々、いわゆる「岳郷」の人々から厚く信仰されてきました。二上山は水源の山としても重要であり、雨や水の恵みをもたらす神として、日々の暮らしと密接に関わっていたのです。
明治6年(1873年)には郷社に列格し、地域の中心的な神社としての地位を確立しました。
現在の社殿は、昭和49年(1974年)の二上山大火により焼失した後、翌年に再建されたものです。簡素ながらも厳かな佇まいを見せ、社殿内部には小さな榊を御神体として祀っています。人工的な装飾を極力排した姿は、山そのものを神として敬う古来の信仰を感じさせます。
また、本社の東側には、大津皇子の墓と伝えられる場所があり、歴史と信仰が交錯する二上山ならではの景観を形づくっています。
葛木二上神社を語るうえで欠かせないのが、「岳のぼり」と呼ばれる伝統行事です。かつて干ばつの年には、岳郷の人々が「嶽の神様は幟がお好き」と唱えながら、幟や提灯を携えて二上山に登り、雨乞いの祈りを捧げました。この登拝は、単なる祭礼ではなく、水と農を司る神への切実な願いが込められた行事でした。
現在でも、毎年4月23日になると、有志によって「岳のぼり」が行われ、地域の歴史と信仰が大切に受け継がれています。
二上山(にじょうさん)は、奈良県葛城市と大阪府太子町にまたがる山で、雄岳(約517m)と雌岳(約474m)の二峰からなる双耳峰です。その穏やかな山容は奈良盆地や大阪平野の各地から望むことができ、古くから人々に親しまれてきました。
二上山は標高こそ高くありませんが、登山道がよく整備され、初心者から経験者まで楽しめるハイキングコースとして人気があります。特に雌岳山頂からの眺望は素晴らしく、奈良盆地から大阪平野までを一望することができます。雄岳と雌岳を結ぶ稜線歩きでは、場所によって大阪湾や葛城山、金剛山の山並みを望むこともできます。
二上山は、瀬戸内火山帯の一角を成す古火山であり、約1400万年前に活動を終えたと推定されています。山中では讃岐岩(サヌカイト)や流紋岩などが見られ、これらは古代の石器文化を支える重要な資源でした。北麓一帯には後期旧石器時代から弥生時代にかけての遺跡群が広がり、採掘坑や石器が数多く確認されています。
古墳時代から飛鳥時代にかけて、二上山周辺は大阪湾と飛鳥の都を結ぶ交通の要衝でした。山の南側には日本最古級の官道とされる竹内街道が通り、政治・文化の動脈として機能しました。また、二上山の石材は高松塚古墳にも用いられたと伝えられています。
中世には楠木正成が二上山城を築き、戦国時代には河内畠山氏の支城として利用されました。雄岳山頂に残る城跡は、山が持つ軍事的な重要性も物語っています。
二上山の山麓には、岩屋と鹿谷寺跡という二つの石窟寺院跡が残されています。いずれも国の史跡に指定され、奈良時代から平安時代にかけての信仰の姿を今に伝えています。岩を掘り抜いて造られた仏像や塔は、自然と一体となった祈りの空間を形成しています。
葛木二上神社と二上山は、切り離すことのできない関係にあります。山そのものを神と仰ぎ、自然の恵みに感謝しながら暮らしてきた人々の心が、今もなおこの地に息づいています。登山や参拝を通して、古代から連なる信仰と歴史の重なりを体感できる場所として、二上山と葛木二上神社は、訪れる人に深い静けさと感動を与えてくれることでしょう。