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氷室神社

(ひむろじんじゃ)

氷の神を祀り夏季にはかき氷をお供え

氷室神社は、奈良県奈良市登大路町に鎮座する、氷と深い関わりをもつ全国的にも珍しい神社です。奈良時代に創建された由緒正しい古社であり、日本における製氷・冷蔵技術の源流を今に伝える存在として広く知られています。

現在では、冷凍・製氷業界をはじめ、菓子職人、料理人、食品関係者などから篤い信仰を集めるほか、一般の参拝者にも「涼」「清浄」「厄除け」の神社として親しまれています。東大寺や奈良国立博物館にほど近く、奈良公園観光の途中に立ち寄れる立地も魅力です。

氷とともに始まった神社の起源

奈良時代に始まる献氷の歴史

氷室神社の創建は、和銅3年(710年)7月22日、元明天皇の勅命によって春日山の月日磐(つきひいわ)に氷の神を祀ったことに始まります。この出来事は『続日本紀』や『氷室神社縁起絵巻』にも記されており、国家事業として氷を管理していたことがうかがえます。

当時、春日野には「氷池」と呼ばれる池が設けられ、厳冬期に自然に張った氷を切り出して「氷室(ひむろ)」と呼ばれる貯蔵施設に保存していました。これらの氷は、翌年の夏になると平城京へと運ばれ、天皇や宮中で用いられていました。

春日氷室と古代の冷蔵技術

この制度は和銅4年(711年)の初献氷を皮切りに、奈良時代を通じて約70年間続いたとされています。人工的な冷却手段のない時代に、自然の力を利用して氷を保存し、夏まで保つ技術は非常に高度なものでした。

氷室神社は、こうした古代日本の知恵と工夫を背景に成立した神社であり、氷を通して人々の暮らしと国家を支えてきた歴史を今に伝えています。

現在地への遷座と祭神の成立

平安時代の遷座

平安京遷都に伴い、春日山周辺の献氷制度はいったん途絶えますが、貞観2年(860年)、清和天皇の命により氷室神社は現在の地へ奉遷されました。この遷座によって、氷の神を祀る信仰が再び整えられ、神社としての体制が確立していきます。

三柱の祭神

氷室神社では、氷と献氷に関わる三柱の神々が祀られています。

闘鶏稲置大山主命(つげのいなぎおおやまぬしのみこと)は、氷の製法を伝えた神とされ、氷室信仰の中心的存在です。
大鷦鷯命(おおさざきのみこと)は第16代仁徳天皇で、国家安泰を象徴する神格です。
額田大仲彦命(ぬかたのおおなかひこのみこと)は、氷を初めて献上した人物として信仰されています。

南都楽所と舞楽の神社

日本三楽所の一つとしての繁栄

13世紀になると、氷室神社には南都楽所が置かれました。これは京都・大阪と並ぶ日本三楽所の一つで、神職が楽人を兼ね、舞楽や雅楽を奉納する拠点として大いに栄えました。

氷室神社は春日大社の別宮として位置付けられ、運営費用は春日社や興福寺の朱印地から支えられていました。神社でありながら、音楽と芸能の中心地として重要な役割を果たしていたのです。

明治維新と楽所の終焉

明治維新後の神仏分離政策により、興福寺との関係は断たれ、明治3年(1870年)には南都楽所は廃止されました。その伝統は後に宮内庁雅楽部へと引き継がれ、日本の雅楽文化の礎となっています。

境内の見どころ

境内全体の魅力

氷室神社の境内は決して広大ではありませんが、古社ならではの落ち着いた雰囲気と、歴史を感じさせる建造物が点在しています。春日野の自然と調和した静謐な空間は、参拝者に安らぎを与えてくれます。

一ノ鳥居

登大路に面して立つ一ノ鳥居は、参拝の入口として凛とした存在感を放っています。

鏡池

境内にある鏡池は、しだれ桜が水面に映り込むことで知られ、春には写真愛好家にも人気のスポットとなります。

本殿

本殿は三間社流造・檜皮葺で、文久年間に再建された奈良県指定有形文化財です。簡素ながらも品格ある佇まいが印象的です。

舞殿(拝殿)

かつて南都楽所の中心であった舞殿は、勾欄付きの舞楽殿として貴重な存在で、奈良市指定有形文化財に指定されています。

氷室神社の文化財

重要文化財

木造舞楽面 陵王(りょうおう)は、鎌倉時代に制作された彩色木彫の舞楽面で、現在は奈良国立博物館に寄託されています。

奈良県・奈良市指定文化財

本殿、表門および東西廊、舞殿(拝殿)などが指定を受けており、神社全体が歴史的価値の高い空間となっています。

氷にまつわる神事と行事

献氷祭

毎年5月1日に行われる献氷祭は、氷室神社を代表する神事です。全国から製氷・冷凍業者が参列し、商売繁盛と業界の発展を祈願します。

神前には花氷や、高さ約1メートルの鯉や鯛を封じ込めた氷柱が奉納され、舞殿では舞楽が奉じられます。氷と古式神事が融合した、他にはない祭りです。

例祭と渡御

例祭は永久5年(1117年)に始まり、現在は毎年9月末から10月初旬にかけて行われます。江戸時代末期までは「氷室の舞楽祭」として、9月1日の夕刻から翌日にかけて行われ、38曲もの舞楽が奉納されたという記録が残っています。2020年には、58年ぶりに神輿渡御が復活し、往時の荘厳な姿がよみがえりました。

氷室神社ならではの体験

氷みくじとかき氷献氷

氷の上におみくじを置くと文字が浮かび上がる氷みくじは、参拝者に人気の体験です。夏季には、御神前にかき氷を供えるかき氷献氷も行われ、供えた後に味わうことができます。

氷献灯と幻想的な夜

毎月1日には氷の灯籠に火を灯す氷献灯が行われ、境内は幻想的な雰囲気に包まれます。昼間とは異なる静かな美しさを感じられるひとときです。

四季とともに楽しむ氷室神社

氷室神社は、しだれ桜の名所としても知られ、春には境内一面が淡い桜色に染まります。夏は氷にまつわる行事で涼を感じ、秋は例祭の賑わい、冬は静寂の中で古代の氷信仰に思いを馳せることができます。

まとめ

氷室神社は、日本の製氷文化の原点を伝える極めて貴重な神社であり、奈良の歴史と信仰、芸能文化が重なり合う特別な場所です。観光の合間に立ち寄るだけでも、深い歴史と静かな感動を味わうことができるでしょう。奈良を訪れる際には、ぜひ足を運び、氷とともに歩んできた日本の歴史に触れてみてください。

Information

名称
氷室神社
(ひむろじんじゃ)
リンク
公式サイト
住所
奈良県奈良市春日野町1-4
電話番号
0742-23-7297
営業時間

4月~10月 6:00~18:00
11月~3月 6:30~17:30

料金

無料

駐車場
24台 有料
アクセス

近鉄奈良駅から徒歩15分

JR・近鉄奈良駅から市内循環バス「氷室神社・国立博物館前」下車すぐ

奈良市・生駒市

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