奈良県山辺郡山添村に鎮座する春日神社は、「山添春日」とも呼ばれ、長い歴史と格式を誇る由緒正しい神社です。緑豊かな里山に囲まれた静かな境内は、古代から地域の信仰を集め、現在も祭礼や伝統芸能を通じて大切に守り継がれています。
口碑や古文献によれば、春日神社は平城京遷都の頃、鹿島神宮の祭神である武甕槌命(たけみかづちのみこと)が、奈良の春日大社へ向かう途中に立ち寄った地に創建されたと伝えられています。「名張から来られた」「薦生から遷ってきた」といった伝承も残り、伊賀・伊勢・大和を結ぶ信仰の道の中継地として重要な役割を担ってきました。
御祭神は、武甕槌命・経津主命・天児屋根命・大比売命の四柱で、武勇、国家安泰、家内安全、五穀豊穣など、幅広い御神徳が信仰されています。
春日神社の本殿は、一間社春日造り、桧皮葺きの社殿で、境内北端に南面して建てられています。現在の社殿は、棟札の記録から寛永10年(1633年)、江戸時代前期の建立と考えられています。
特に注目されるのが、本殿身舎(もや)の組み物の形式です。この構造は他に類例がほとんどないとされ、建築史の上でも非常に貴重な存在です。永禄4年(1561年)から伝わる多数の棟札とともに、長い年月を経て丁寧に守られてきたことがうかがえます。
春日神社には、永禄4年(1561年)を最古とする棟札が数多く残されています。これらの棟札は、社殿の修理や造替のたびに奉納されたもので、神社が世代を超えて地域の人々に支えられてきた証しです。山辺郡誌や大和志などの史料にも記され、かつては十三か村の氏神として広く崇敬を集めていました。
春日神社を語るうえで欠かせないのが、12月の申の日に行われる例祭「申祭り(さるまつり)」です。この祭礼では、境内若宮において能楽・狂言が奉納され、境内は雅で厳かな雰囲気に包まれます。
奉納される能楽は、山添村無形文化財に指定されている菅生春楽社による金春流の能で、「翁舞」などの演目が演じられます。歴史ある社殿を背景に繰り広げられる能楽は、訪れる人々を幽玄の世界へと誘います。
春日神社には、地域に語り継がれる民話も残されています。昔、奈良から来た身分の高い武士が祓戸橋から転落したものの、不思議と無傷で助かったことから、神の加護に感謝して一振りの刀を奉納したと伝えられています。
その刀には三条小鍛冶宗近の銘があり、現在もご神体を守る宝刀として大切に保管されています。また、山の神の祭りでは、ネムの木で作った刀に宗近の名を書く習わしが残り、信仰と民俗文化が今も息づいています。
所在地:奈良県山辺郡山添村
自家用車:名阪国道・山添ICより約2km
公共交通:
・JR・近鉄天理駅から国道山添行きバス「国道山添」下車 徒歩約2km
・上野市駅から国道山添行きバス「大西」下車 徒歩約1.5km
・奈良市内より奈良交通バス「春日」下車 徒歩約5分