奈良県 > 奈良市・生駒市 > 頭塔

頭塔

(ずとう)

奈良時代に築かれた希少な土塔遺構

頭塔は、奈良県奈良市に所在する、奈良時代に築かれた非常に珍しい土製の仏塔です。東大寺南大門から南へ約1キロメートルほどの場所に位置し、現在は緑に包まれた静かな環境の中で、その独特な姿を今に伝えています。

この頭塔は、一辺約32メートルの正方形を基壇とし、高さ約10メートル、7段の方形段を積み重ねた階段ピラミッド状の構造をしています。日本の仏塔の中でも極めて特異な形式であり、奈良時代の建築技術や仏教美術を知る上で重要な史跡として、1922年(大正11年)3月8日に国の史跡に指定されました。

頭塔の名称と玄昉伝説

頭塔という一風変わった名称の由来については、長らく伝説が語り継がれてきました。奈良時代の僧であった玄昉(げんぼう)が、政争や怨霊信仰と結びつけられ、藤原広嗣の祟りによって非業の死を遂げ、その首がこの地に埋められたという説です。

この伝承は平安時代末期、大江親通の『七大寺巡礼私記』にも記され、次第に広く知られるようになりました。「土塔(どとう)」と呼ばれていた名称が転訛して「ずとう」となり、玄昉の首塚というイメージと結びついて、後に「頭塔」という漢字が当てられたと考えられています。

しかし、近代以降の学術研究により、この説は伝承の域を出ないことが明らかとなり、頭塔は国家安泰を祈願して築かれた仏教施設であるという見解が定説となりました。

実忠による造営と頭塔の本来の役割

『東大寺要録』によれば、頭塔は神護景雲元年(767年)、東大寺の僧であり、二月堂修二会(お水取り)を創始したことで知られる実忠(じっちゅう)によって造営されたと記されています。実忠は、東大寺別当・良弁の命を受け、国家安泰と仏法興隆を祈るため、この土塔を築いたと考えられています。

当時、奈良時代には各地で石仏が造られていましたが、これほど大規模に石仏を配置した土塔はきわめて珍しく、頭塔は日本における唯一無二の存在といえるでしょう。

構造と建築的特徴

頭塔は版築によって築かれた方形の土壇で、基壇は一辺32メートル、高さ約1.2メートル。上段へ行くにしたがって約3メートルずつ縮小され、最上段は一辺約6.2メートルとなっています。奇数段は約1.1メートル、偶数段は約0.6メートルの高さで構成され、全体として約10メートルの高さを誇ります。

この形態は、インドや中央アジアに見られる古代仏塔の影響を受けたものと考えられ、昭和期の研究者・石田茂作は、頭塔を「奈良時代末期における最先端の仏塔様式」と評価しました。

石仏群 ― 奈良時代石仏の宝庫

頭塔最大の見どころは、各段の東西南北四面に配置された石仏群です。創建当初は、各面に11基ずつ、合計44基の石仏が安置されていたと推定されています。現在確認されている石仏は22基で、その多くが重要文化財に指定されています。

石仏は浮彫を主体とし、一部には線刻(線彫)も用いられています。如来像や両脇侍像、涅槃図など多彩な主題が表現され、すべての石仏に天蓋が刻まれている点が大きな特徴です。これらは奈良時代石仏彫刻の中でも極めて貴重な作例とされています。

発掘調査によって判明した重層的な歴史

1986年(昭和61年)から奈良文化財研究所によって本格的な発掘調査が行われ、現在の頭塔の下層から、さらに古い三重構造の土塔が発見されました。正倉院文書「造南寺所解」などの史料から、この下層塔は天平宝字4年(760年)に別の人物によって築かれたものと判明しています。

実忠による造営は、この先行する土塔をほぼ解体・改修した上で完成させたものであり、頭塔が一度きりの建設ではなく、時代を超えて改変されてきた重層的遺構であることが明らかになりました。

保存と復元整備

現在の頭塔は、北半部が発掘調査の成果をもとに復元整備され、東・西・北面の石仏は屋根付きの壁龕に安置されています。一方、南半部は「頭塔の森」として現状保存され、発掘前の姿をとどめています。この対照的な保存方法により、遺構の理解と自然環境の保全が両立されています。

見学案内と観光情報

頭塔の見学には、管理費として300円が必要です。見学希望者は、頭塔南側にある仲村表具店に申し出る必要があります(不在時は見学不可)。春と秋には特別公開が行われ、予約不要で多くの来訪者を迎えています。

アクセスは、奈良交通市内循環バス「破石町(わりいしちょう)」下車徒歩約5分、または近鉄奈良駅から南東へ約2キロメートル、徒歩約25分です。東大寺や新薬師寺とあわせて巡ることで、奈良時代の宗教と都市計画をより深く体感できるでしょう。

頭塔が伝える奈良時代の精神

頭塔は、単なる遺跡ではなく、奈良時代の人々が国家安泰と仏法興隆を願い、土と石に込めた信仰の結晶です。石仏に刻まれた穏やかな表情と、堂々とした土塔の姿は、現代を生きる私たちに、古代日本の精神文化と造形美の奥深さを静かに語りかけてくれます。

Information

名称
頭塔
(ずとう)

奈良市・生駒市

奈良県