護摩壇山は、和歌山県田辺市と奈良県吉野郡十津川村の県境に位置する山で、標高は1,372メートルを誇ります。紀伊半島の中央部に広がる紀伊山地の一角を成し、古くから信仰や伝承、そして豊かな自然に恵まれた山として知られてきました。南国の印象が強い和歌山県にありながら、冬季には積雪が見られるなど、気候や植生の面でも特徴的な高山地帯です。
護摩壇山という名前は、歴史的な伝承に由来しています。熊野地方に伝わる物語によれば、源平合戦の一つである一ノ谷の戦いの後、平家の武将平維盛は戦線を離脱し、小森谷渓谷に身を潜めていたとされています。その後、壇ノ浦の戦いで平家が滅亡したことを知った維盛は、護摩壇山に登り、平家一門の行く末を占ったと伝えられています。
その際、山中で護摩を焚いて祈りを捧げたことから、この山は「護摩壇山」と呼ばれるようになったといわれています。この伝承は、山そのものに神聖さや霊性を与え、現在に至るまで人々の信仰心を集める要因の一つとなっています。
長らく護摩壇山は「和歌山県の最高峰」と考えられてきました。しかし、2000年(平成12年)に国土地理院が詳細な測量を行った結果、護摩壇山の東方約700メートルに位置する無名峰の方が約10メートル高く、標高1,382メートルであることが確認されました。
この峰は新たに龍神岳と命名され、現在では和歌山県の最高標高地点とされています。ただし、護摩壇山と龍神岳は同じ高原状の山域に属しており、一帯は和歌山県内で最も標高の高い地域であることに変わりはありません。周囲を見渡すと、四方八方に1,000メートル級の山々が連なり、雄大で奥深い山岳景観が広がっています。
護摩壇山の大きな魅力の一つは、高野龍神スカイライン(国道371号)によって、山頂近くまで車でアクセスできる点にあります。公共交通機関としてはバスも運行されており、登山初心者や観光目的の来訪者でも比較的気軽に訪れることが可能です。
ただし、冬季には注意が必要です。南国和歌山にありながら、護摩壇山周辺は冬になると常時積雪が見られ、チェーン着用の義務や二輪車通行禁止といった交通規制が実施されます。訪問の際には、事前に道路状況や気象情報を確認することが重要です。
山頂付近のバス停留所周辺には駐車場が整備されており、土産物店とともにごまさんスカイタワーと呼ばれる展望塔が建っています。この展望塔からは、天候に恵まれれば紀伊山地の山々を遠望でき、条件が良ければ紀伊水道まで見渡すことができます。
展望施設から山頂までは、ブナ林の中を通る整備された遊歩道が続いており、徒歩でも短時間で到達できます。なだらかな道が多く、四季折々の自然を感じながらの散策が楽しめる点も、護摩壇山の大きな魅力です。
護摩壇山周辺の森林は、小森谷川や古川の源流部にあたり、「護摩壇山自然の森」として管理されています。この区域は高野龍神国定公園にも指定されており、貴重な自然環境が保全されています。
また、山の南斜面一帯は護摩壇山森林公園として整備され、遊歩道や多目的広場などが設けられています。家族連れや自然観察を目的とした来訪者にも利用しやすく、レクリエーションと自然保護の両立が図られています。
近年、護摩壇山周辺では自然環境の変化も見られています。2022年(令和4年)夏頃からは、ナラ枯れと呼ばれる樹木被害が確認されるようになりました。これは病原菌を媒介する昆虫によって引き起こされる現象で、今後の森林管理や保全活動が重要な課題となっています。
南海鋼索線高野山駅からは、南海りんかんバスが運行する予約制急行バス「護摩壇山行き」を利用できます。所要時間は約1時間10分で、2022年時点では1日1往復、4月から11月の設定日のみ運行されています。
また、JRきのくに線紀伊田辺駅からは、龍神バスによる護摩壇山行き聖地巡礼バスが運行されており、所要時間は約2時間5分です。こちらも運行期間や本数が限られているため、事前確認が欠かせません。
護摩壇山は、平家伝承に彩られた歴史性と、紀伊山地ならではの雄大な自然を併せ持つ山です。展望施設や遊歩道が整備され、観光地としての魅力も高い一方で、貴重な森林環境を守る役割も担っています。四季折々の風景と静かな山の空気を味わいながら、護摩壇山ならではの奥深い魅力を体感してみてはいかがでしょうか。