野猿とは、急峻な地形が連なる峡谷の両岸にワイヤーロープを張り、そのロープに吊り下げた「屋形(やかた)」に乗って人力で渡る、昔ながらの索道です。奈良県十津川村をはじめとする山深い地域で見られた独特の交通手段で、現在ではほとんどが観光用として復元・保存されています。
この野猿は、単なる遊具ではなく、かつて人々の生活を支えた重要な移動手段でした。深い谷と激しい川の流れに阻まれ、橋を架けることが難しかった時代、野猿は対岸へ渡るための貴重な「生活の足」として活躍してきたのです。
野猿という少し不思議な名前は、猿が木の蔓(つる)を伝って移動する姿に由来すると言われています。両岸に張られたワイヤーロープに滑車を通し、屋形を吊り下げ、その中に座って自分の力でロープをたぐり寄せながら進みます。
川面の上をゆっくりと進む屋形は、スピードこそありませんが、谷の高さや足元に広がる清流を間近に感じられるため、独特の緊張感と爽快感を味わうことができます。この「自分の力で進む」という体験こそが、野猿ならではの大きな魅力です。
現在、十津川村ではホテル昴(すばる)の敷地内で、観光用に再現された野猿を体験することができます。かつて日常の移動手段であった野猿を、現代の旅行者が安全に楽しめるよう配慮しながら保存・活用しています。
屋形に一人で乗り込み、ロープをたぐり寄せながら対岸へ向かう体験は、子どもから大人まで幅広い世代に人気です。まるで「空の上の秘密基地」にいるような感覚になり、童心に返って楽しむことができるでしょう。
野猿は、自然と共に生きてきた先人たちの知恵の結晶です。橋を架けることができない厳しい地形の中で、人々は工夫を凝らし、シンプルでありながら実用的な仕組みを生み出しました。
今では道路や橋が整備され、野猿を交通手段として使うことはなくなりましたが、こうした体験を通して、昔の人々の暮らしや苦労、自然との向き合い方を肌で感じることができます。
安全に野猿を楽しむため、以下の点には十分注意が必要です。
・野猿は一人乗りです。
・乗り降りの際は、ワイヤーロープと滑車の間に指を挟まないよう注意してください。
・屋形の床の中央に座り、安定した姿勢でロープを引いてください。
・使用中は危険ですので、身を乗り出したり、屋形を揺らしたりしないでください。
「今では子どもたちに大人気の野猿じゃが、昔は遊びの乗り物ではなく、わしらにとっての生活の足じゃった」。これは、地元に伝わる語りの一節です。鉄線橋が架けられるまでは、川を渡る唯一の手段として、日々の暮らしを支えてきました。
観光用として残された野猿は、そうした記憶を次の世代へ伝える大切な文化遺産でもあります。
野猿体験ができるのは、ホテル昴(敷地内)です。宿泊者以外でも利用でき、料金は無料となっています。
ホテル昴は、山や川、満天の星空に囲まれた自然豊かな旅館です。熊野古道小辺路の果無峠ルート下山口に近く、峠越えの後に温泉で疲れを癒やすことができます。
広大な敷地内には、多目的広場やペットハウスも整備され、家族連れにも人気です。
昴の郷温泉保養館「星の湯」では、内湯や露天風呂、檜風呂、打たせ湯、寝湯など、多彩なお風呂を楽しめます。すべて源泉100%かけ流し・加温加水なしという、全国的にも珍しい贅沢な温泉です。
泉質はナトリウム炭酸水素塩泉で、湯冷めしにくく、美肌効果や神経痛、冷え症などに良いとされています。
国内でも珍しい温泉を利用したプールは、年間を通して快適に利用でき、25mプールのほか幼児用プールも備えています。
また、飲泉も可能で、ぐい飲み一杯ほどを少量ずつ飲むことで、内臓の活性化が期待できるとされています。
野猿は、十津川村ならではの自然と暮らしが生んだ貴重な文化体験です。スリルと楽しさの中に、先人の知恵と歴史を感じることができるでしょう。
野猿体験の後は、昴の郷の温泉で心身を癒やし、自然と文化に包まれた十津川村の魅力を存分に味わってみてはいかがでしょうか。