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金峯山寺

(きんぷせんじ)

吉野町に位置する修験道の総本山

金峯山寺は、奈良県吉野郡吉野町吉野山に所在する、金峯山修験本宗の総本山です。古来より山岳信仰の中心地として多くの修験者を迎え入れ、現在に至るまでその歴史と伝統を受け継いでいます。山号は「国軸山(こくじくざん)」と称され、寺の創建は伝説的な修験者である役小角(えんのおづぬ)によると伝えられています。

金峯山寺の本堂である蔵王堂には、3体の蔵王権現立像が安置されており、中でも中央の像は高さおよそ7メートルにもおよぶ巨大な尊像であり、その壮観な姿は訪れる者を圧倒します。この像は秘仏とされ、特別な期間を除いて一般には公開されておらず、「日本最大の秘仏」とも称されています。

吉野山の霊場としての歴史と背景

吉野・大峯の地理と霊的意義

金峯山寺が位置する吉野山は、古くから桜の名所として知られる一方で、南北朝時代の南朝の拠点でもありました。また、「金峯山」とは特定の山を指す名称ではなく、吉野山および、そこから南方に位置する大峯山系・山上ヶ岳までを含んだ広域な霊場の総称です。

この地域は、高野山や熊野三山とともに、山岳信仰の聖地として多くの参詣者を集めてきました。そして現在、これらの地はユネスコ世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成要素として登録されています。

金峯山寺と周辺の寺社

吉野山には金峯山寺のほかにも、吉水神社如意輪寺竹林院桜本坊吉野水分神社などの由緒ある社寺が数多く存在します。これらの寺社が集まる吉野山は、単なる山の名前ではなく、広大な宗教空間を示す名称として用いられてきました。

金峯山寺の本尊:蔵王権現

蔵王権現の姿と意味

金峯山寺の中心的な信仰対象は、蔵王権現(ざおうごんげん)です。これは仏教とも神道とも一線を画す、日本独自の信仰対象であり、修験道において最も重要な尊格とされています。蔵王権現は、火焔を背にし、逆立つ髪、吊り上がった目、大きく開かれた口、そして虚空を踏むように片足を上げた姿が特徴です。

この像容は、インドや中国から伝わった仏像とは異なり、日本独自に創造された宗教芸術であり、修験道の精神を象徴する存在となっています。蔵王権現は、役小角が吉野山での修行中に感得したと伝えられ、その由来からも山岳信仰との深い結びつきが見て取れます。

豊臣秀吉と蔵王堂の再建

現在の蔵王堂は、天正18年(1590年)豊臣秀吉の寄進によって再建されたものです。堂内の蔵王権現立像3体は、当時の南都仏師であった宗貞・宗印兄弟によって制作され、彼らは京都の方広寺大仏の制作にも携わったことで知られています。胎内から発見された銘文により、彼らの手による造像であることが確認されています。

役小角と修験道のはじまり

伝説的修験者・役小角

役小角(えんのおづぬ)は、7世紀に奈良県御所市で誕生し、葛城山や金峯山を中心に修行したとされる人物です。彼は「役行者(えんのぎょうじゃ)」としても知られ、数々の霊験を残したとされる一方で、その実像は史実と伝説が入り混じった存在です。

『続日本紀』には、文武天皇の時代に役小角が伊豆に流罪になった記録があり、実在の人物であったことは確かです。しかし、彼の神秘的なイメージや伝説は、後世の修験道や山岳信仰の中で大きく育まれていきました。

金峯山寺の歴史的展開

平安時代の再興と信仰の拡大

金峯山寺の中興の祖とされるのは、平安時代初期の真言宗の僧侶である聖宝(しょうぼう)です。彼は京都の醍醐寺を開いたことでも知られ、寛平6年(894年)には荒廃していた金峯山を再興しました。堂宇を再建し、如意輪観音、多聞天、金剛蔵王菩薩を安置したことで、金峯山は再び信仰の中心地として甦りました。

その後、宇多法皇、藤原道長、白河上皇などの皇族・貴族が参詣し、金峯山は皇室の信仰の対象にもなりました。藤原道長は、山上の蔵王堂付近に日本最古の経塚である金峯山経塚を築いています。埋納された経筒は現存し、国宝に指定されています。

中世から近世へ:修験道の展開

中世以降、修験道は天台宗系の本山派と、真言宗系の当山派に分かれました。吉野を中心とする当山派は、聖宝を開祖とし、金峯山寺を重要な拠点としました。一方、熊野で活動した本山派は、園城寺を中心とした天台宗の系統です。

江戸時代には修験道は制度的に確立され、多くの修験者たちが吉野・大峯を巡るようになりましたが、明治時代の神仏分離令と修験道廃止令により、金峯山寺を含む修験道の寺院は大きな打撃を受けました。しかし、20世紀に入ってからは修験道の宗教的意義が見直され、現在では金峯山修験本宗として再び信仰の場として多くの人々に親しまれています。

まとめ

金峯山寺は、山岳信仰と日本独自の宗教文化を今に伝える重要な寺院です。吉野山という自然と歴史が調和した地にあり、壮大な蔵王堂と神秘的な蔵王権現の姿は訪れる者に深い感銘を与えます。修験道の精神や日本の宗教文化に触れる旅として、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。

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名称
金峯山寺
(きんぷせんじ)

吉野・天川村・十津川

奈良県