双門の滝は、奈良県吉野郡天川村に位置し、「日本の滝百選」にも選定された名瀑です。全体の落差はおよそ70メートルに達し、上部ではいくつかの段に分かれた段瀑となり、下部では狭い岩の裂け目から勢いよく水が流れ落ちる、非常にダイナミックな景観を誇ります。
一般的な滝と異なり、双門の滝は簡単には到達できない秘境であり、アクセスには険しい登山道を進む必要があります。弥山川に沿って遡行し、裏双門と呼ばれる岩尾根に取り付き、そこを登ると「双門の滝テラス」と呼ばれる高台に到着します。ここから双門の滝の全貌を遠望することができます。
この滝を形成する地形には、天川村周辺特有の地質が大きく関係しています。双門の滝が流れ落ちる崖から観瀑尾根までの谷は非常に狭く、右側には切り立った垂直の岩壁が連なります。この地域は「天川亜層群」という地層帯に属しており、花崗岩がむき出しになっている「白川八丁」などの景観は圧巻です。
白川八丁では「白川八丁岩体」と呼ばれる花崗岩の一部が露出しており、これは「大嶺花崗岩類」としてこの地域に広く分布しています。こうした花崗岩の影響で、地盤の上昇が起こり、侵食に強い地質が滝の形成を促したとされています。
双門の滝へは国道309号線を経由し、天川村北角地区の熊渡(くまわたり)まで車で向かいます。最寄りの鉄道駅は近鉄吉野線の下市口駅で、そこから熊渡までは車で約45分かかります。駐車場は整備されていませんが、熊渡の三叉路は広めで、路肩に駐車可能です。
登山ルートは「超上級者向け」で、雨天時は入山が禁止されているほど危険度が高いです。熊渡から南へ進むと案内板があり、道中の模式図が確認できます。およそ30分ほど未舗装の林道を進むと分岐点に到達し、左が双門の滝ルート、右が弥山へのルートとなります。
左に進むとすぐに「白川八丁」と呼ばれる川幅約40mの広大な川原に出ます。ここから川原を30分ほど遡行すると水流が復活し、小滝「ガマ滝」や堰堤が現れます。さらに進むと「一の滝」「二の滝」「三の滝」と連なる連瀑帯が登場し、その上流に双門の滝が控えています。
三の滝から先は垂直の岩壁に阻まれて進行不可のため、滝の左側の尾根へ登るコースへ進みます。このルートは「裏双門」と呼ばれ、鉄製の梯子が32本、鎖場や空中回廊のような箇所もあり、非常にスリルのある登山が求められます。
この急登を登り切ると、「双門の滝テラス」と呼ばれる高台に到達し、そこから滝を遠望することが可能です。さらに進むとザンギ平を経由し、弥山の登山道に合流します。全体的にかなりの登山技術と装備が必要なルートです。
弥山は、奈良県吉野郡天川村の南東部に位置する標高1,895メートルの山で、大峰山脈の中央にそびえる霊峰です。奈良県内では八経ヶ岳に次ぐ標高を持ち、山頂は南北に長く平坦で、周囲の名峰を一望できる展望地として知られています。
弥山は吉野熊野国立公園の指定区域内に位置し、周囲には山上ヶ岳、稲村ヶ岳、大普賢岳、大台ヶ原山、八経ヶ岳などの山々が連なっています。南東部にある「国見八方睨(くにみはっぽうにらみ)」からは、これらの峰々を一望することができます。
年間平均気温は約8度と冷涼で、年間降水量は約3,500ミリに達し、夏季は多雨、冬季は積雪が多いのが特徴です。冬場には山頂付近で樹氷も見られることがあります。
弥山は亜高山帯に属し、トウヒやシラビソといった常緑針葉樹の原生林に覆われています。特に隣接する八経ヶ岳との間にある山腹には、「オオヤマレンゲ」が自生しており、国の天然記念物にも指定されています。7月上旬には可憐な白い花が咲き、登山者の目を楽しませてくれます。
また、弥山周辺ではニホンシカ、ツキノワグマ、ニホンカモシカ、イノシシなどが生息し、渓流にはイワナが棲んでいます。弥山川上流は「イワナの棲息地」として1962年に奈良県天然記念物にも指定されています。
弥山は古来より信仰の対象として崇敬されてきた霊峰であり、奈良時代の遺物が山頂付近から出土しています。平安時代以降は修験道の行場として使われ、大峯奥駈道の行場の一つとして現在も修行の場となっています。
山頂には「弥山神社(弥山弁財天社)」があり、これは麓に鎮座する天河大弁財天社の奥の院にあたります。戦後には女人禁制が解かれ、現在では男女問わず多くの登山者・信仰者が訪れています。
弥山への登山ルートは多岐にわたり、大峯奥駈道を南北に縦走するルートの他、天川川合や坪内から栃尾辻を経由するルート、行者還トンネルからのアクセスなどがあります。中でも双門の滝ルートは最も険しく、スリル満点の上級者向けルートです。
山頂付近には「弥山小屋」があり、宿泊や休憩にも利用できます。自然美と霊性が融合したこの地は、まさに特別な体験を提供してくれる場所です。
奈良県天川村に位置する「双門の滝」と「弥山」は、壮大な自然と深い信仰の歴史が調和する、まさに秘境と呼ぶにふさわしいスポットです。登山には十分な準備と経験が必要ですが、その先に広がる景色と静寂は、他では味わえない貴重な体験を与えてくれるでしょう。