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吉野水分神社

(よしの みくまり じんじゃ)

歴史と自然に包まれた霊験あらたかな神域

奈良県吉野町、世界遺産にも登録されている吉野山の上千本エリアに鎮座する吉野水分神社は、古来より人々の信仰を集めてきた霊験あらたかな神社です。別名を子守宮(こもりのみや)とも呼ばれ、豊かな水を司る「水の神」や「子授けの神」として知られています。

世界遺産の構成資産として

この吉野水分神社は、2004年(平成16年)にユネスコの世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産の一つとして登録されました。吉野山という霊地に佇むこの神社は、その文化的、宗教的意義の高さからも注目されています。

神社の起源と歴史

古代より続く信仰の証

吉野水分神社の創建年は明確ではありませんが、最古の記録は『続日本紀』の文武天皇2年(698年)に遡ります。この記録には「馬を芳野水分峰神に奉る。雨を祈ればなり」とあり、当時から祈雨の神として信仰されていたことがうかがえます。

青根ヶ峰と「水分」の意味

もともと吉野水分神社は、吉野山の奥深くにある青根ヶ峰の山頂に鎮座していたとされています。青根ヶ峰は吉野川の支流を生み出す源流の地で、「水分(みくまり)」すなわち「水の分配を司る」神の座すにふさわしい場所です。その後、大同元年(806年)頃に現在の地へ遷座されたと伝えられています。

神仏習合と「子守明神」

平安時代中期以降、「みくまり」が「みこもり」となまり、子どもを守る神「子守明神」として信仰されるようになります。『御堂関白記』や『枕草子』にも登場するこの呼び名は、子授けや安産の神としての信仰の広がりを示しています。

また、神仏習合が進んだ12世紀頃には、水分神が地蔵菩薩の化身(垂迹)とされ、修験道の修行場としても重要な位置を占めるようになります。

豊臣秀吉と吉野水分神社

文禄3年(1594年)、豊臣秀吉が吉野山での花見の際にこの神社を訪れ、子授けを祈願したと伝えられています。そして、その願いが成就し秀頼を授かったことから、秀頼が慶長10年(1605年)に神社を再建しました。現在もこの再建された社殿が残っており、華麗な桃山建築の様式を今に伝えています。

著名人とのゆかり

江戸時代の国学者、本居宣長は、自身がこの神社への祈願によって授かった子であるという母の話を信じ、生涯にわたり吉野水分神社への特別な思いを抱いていました。日記『菅笠日記』にもその思いが綴られており、神社に捧げた和歌も残されています。

社殿と境内の魅力

構造と配置

吉野水分神社の境内は北東向きの急斜面を切り開いて造成された独特の地形にあり、参道入口は修験道である大峯奥駈道に面しています。石段を登ると楼門が現れ、そこから左右に回廊が伸び、正面には幣殿、左右には拝殿と本殿が「コ」の字型に配置されています。

秀頼による再建社殿

現在の社殿は、慶長10年(1605年)に再建されたもので、桃山様式の優美さが際立つ建築として重要文化財に指定されています。幣殿の両端には八角形の古式神輿が安置されており、これらもまた秀頼による奉納品で、文化的価値の高いものです。

歴史を物語る境内の遺構

境内の地下には、神社の長い歴史や宗教的変遷を物語る遺構や遺物が良好な状態で埋蔵されており、学術的にも貴重な場所とされています。また、吉野山自体が国の史跡および名勝に指定されており、吉野水分神社の境内もその指定範囲に含まれています。

祭神と信仰

主祭神と配祀神

吉野水分神社の主祭神は、「天之水分大神(あめのみくまりのおおかみ)」です。水の配分を司る神として、農業や生活に欠かせない水の恵みを人々にもたらすと信じられています。

また、右殿には「天津彦火瓊瓊杵命」「玉依姫命」「天萬栲幡千幡比咩命」、左殿には「高皇産霊神」「少名彦神」「御子神」がそれぞれ祀られており、多くの神々が調和のうちにまつられています。

伝承と伝説

江戸時代の明和4年(1767年)には、紀の川の難所「ザタブチ」での水難事故を防ぐために、筏乗りたちが神社に61段の石段を献納したという伝説があります。それ以降、水難事故がなくなったとされ、「筏乗りの神様」としての信仰も根付いていきました。

アクセスと参拝の注意点

訪問の際の注意

吉野山は標高も高く、特に冬季には凍結の恐れがあります。参拝に訪れる際は天候や足元に十分注意してください。また、山中の立地により移動には時間がかかることもありますので、時間に余裕を持って訪れることをおすすめします。

おわりに

吉野水分神社は、自然と歴史、信仰が融合した特別な神社です。豊臣秀吉や本居宣長などの歴史的人物も深く関わりを持ち、多くの伝説とともに今日まで大切に守られてきました。吉野山の静寂の中で、時の流れを感じながら参拝すれば、心清らかになることでしょう。吉野観光の際には、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

Information

名称
吉野水分神社
(よしの みくまり じんじゃ)

吉野・天川村・十津川

奈良県