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十津川村(奈良県)

(とつかわむら)

日本一広い村で出会う、癒しと感動の旅

日本一広大な村が育んだ自然・歴史・祈りの里

十津川村は、奈良県の最南端に位置し、紀伊半島の奥深い山々に抱かれた日本一面積の大きな村です。三重県・和歌山県と県境を接する山村で、村の東西幅は約33.4km、南北幅は約32.8kmに及び、その面積は672.38平方キロメートルに達します。その広大さは滋賀県の琵琶湖や東京都23区よりも大きいほどです。

村域の大半は急峻な山々と深い谷に覆われ、清流・十津川や熊野川が流れる自然豊かな土地です。人の営みと自然が寄り添いながら紡がれてきたこの村は、訪れる人に安らぎと学び、そして忘れがたい感動を与えてくれる特別な場所です。

また、奥吉野地方に位置するこの地域は、紀伊山地によって他地域との交通が困難であり、その影響で奥吉野方言という独自の言語文化も育まれてきました。興味深いことに、関西にありながら東京式アクセントを使う"言語島"でもあります。

十津川村の自然環境と地理的特徴

十津川村は紀伊山地の中央部に位置し、村全体が山岳地帯に広がっています。標高差が大きく、山間部特有の厳しい自然環境の中で、豊かな森林と清らかな水が育まれてきました。村名の由来ともなっている十津川は、熊野川水系の上流部にあたり、古来より生活・信仰・交通の要として重要な役割を果たしてきました。

この地形は農耕に適さない一方で、狩猟や林業、山の資源を生かした生活文化を形成し、人々の結束力と自立心を育ててきました。

歴史的背景

神話と古代 ― 八咫烏と十津川の始まり

十津川村の歴史は、日本神話にまでさかのぼります。『古事記』『日本書紀』によると、初代天皇である神武天皇が東征を行った際、熊野の険しい山々で道に迷った神武一行を導いたのが八咫烏(やたがらす)でした。この八咫烏の子孫が十津川の人々であるという伝承が、今も村に語り継がれています。

十津川の人々が山中の道を熟知し、険しい自然を自在に行き来できた背景には、こうした神話的な起源が重ね合わされ、村の精神的な支柱となってきました。

免租の郷 ― 独立性を保った山村共同体

十津川村は、山間の厳しい地形ゆえに農業生産が困難であったことから、古来より免租地(年貢を免除された地域)として扱われてきました。壬申の乱以降、十津川の人々は時の権力者に軍事的協力を行う代わりに、租税免除の特権を認められ、半ば独立した村落共同体として存続してきました。

この免租の特権は、明治維新まで一貫して守られ、十津川村独特の誇り高い気風と自治意識を育む土壌となりました。

中世 ― 南朝との深い結びつき

中世に入ると、十津川は南北朝時代の歴史の表舞台に関わるようになります。鎌倉幕府滅亡後、後醍醐天皇が吉野に南朝を樹立すると、十津川は南朝勢力と強い結びつきを持つ地となりました。護良親王が一時身を寄せたとされるほか、後村上天皇や興良親王に関わる古文書が現在も村内に残されています。

狩猟や武術に優れた十津川の人々は、南朝を支える重要な存在であり、村全体が尊王の精神を貫いてきたことがうかがえます。

近世 ― 検地と村組織の形成

天正15年(1587年)、豊臣秀長によって検地が行われ、十津川は近世的な村組織へと組み込まれていきました。しかし、免租の特権は引き継がれ、江戸時代を通じて十津川郷は独自の位置づけを保ち続けました。

この時代、十津川郷は「十津川組」「十津川中」とも呼ばれ、周辺地域とは異なる統治形態を維持していました。

近代 ― 大水害と北海道移住

明治時代に入ると、地租改正により免租の特権は廃止され、十津川も他地域と同様に近代国家の制度に組み込まれました。そんな中、村の歴史を大きく変えたのが、明治22年(1889年)の十津川大水害です。

未曾有の豪雨によって家屋や田畑が壊滅的な被害を受け、生活再建が困難となった人々の一部は、政府の方針に従い北海道へ集団移住しました。こうして誕生したのが、現在の新十津川町であり、今も十津川村との交流が続いています。

経済と産業

主な産業は林業農業、そして鮎などの川魚の養殖と加工です。十津川産の鮎加工品や山菜、「ゆうべし」などが特産品として人気を博しています。また、村内には風屋ダム二津野ダム十津川第一発電所などがあり、電力供給の役割も担っています。

十津川村の食と特産品 ― 山と水の恵み

山林が大半を占める十津川村では、林産物を中心とした特産品が発展してきました。きのこ類、原木しいたけ、柚餅子、川魚加工品、木工品など、自然の恵みを生かした品々は、どれも素朴で滋味深い味わいです。

世界遺産と文化遺産の村

十津川村は、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産を数多く有しています。熊野参詣道小辺路や大峯奥駈道、玉置神社など、信仰と修験の歴史が今も息づいています。

また、谷瀬の吊り橋、野猿(人力索道)、辻家住宅など、山村文化を伝える貴重な文化財も点在しています。

文化遺産と観光名所

世界遺産

「紀伊山地の霊場と参詣道」として、熊野参詣道小辺路大峯奥駈道が世界遺産に登録されています。さらに玉置神社の梵鐘と社務所・台所は国の重要文化財にも指定されています。

自然の宝庫 ― 滝・峡谷・森が織りなす絶景

笹の滝、瀞峡、清納の滝、大泰の滝など、十津川村には名瀑や渓谷が数多く存在します。とりわけ瀞峡のコバルトブルーの水面と断崖絶壁が織りなす景観は、日本とは思えないほど神秘的です。

谷瀬の吊り橋

十津川村を代表する観光名所が谷瀬の吊り橋です。長さ約297メートル、高さ約54メートルの鉄線吊り橋は、足元が揺れるスリルと、眼下に広がる熊野川の絶景が魅力です。村を訪れたことを実感できる象徴的な場所として、多くの人に親しまれています。

谷瀬の吊り橋周辺 ― 立ち寄りグルメと憩いの空間
スプルース

谷瀬の吊り橋のたもとに佇む「スプルース」は、ログハウス風の外観が印象的なカフェです。オムライスやサンドウィッチなど洋食メニューが充実しており、テラス席からは吊り橋を望むことができます。

つり橋茶屋

吊り橋を渡った先にあるつり橋茶屋では、地元産のきのこをたっぷり使った名物きのこうどんが人気です。こんにゃくおでんや地元野菜のお土産も好評で、素朴な味わいが旅の思い出を彩ります。

日本一大きな村の旅のオアシス ― 道の駅「十津川郷」

国道168号沿いに位置する道の駅「十津川郷(とつかわごう)」は、村のほぼ中央に位置し、地元住民はもちろん、観光客やドライバーにとっても欠かせない憩いの場として親しまれています。

「日本一大きな村の旅のオアシス」という言葉が示す通り、ここには十津川村の魅力が凝縮されています。雄大な自然に囲まれた立地に加え、源泉かけ流しの温泉を利用した足湯、観光案内所、特産品販売コーナー、展示施設、飲食店など、多彩な機能を備えた複合施設です。

家族で楽しむ温泉保養施設 ― 昴の郷

道の駅から車で約15分の場所にある昴の郷(すばるのさと)は、温泉・宿泊・公園・プールなどを備えた総合温泉保養施設です。広々とした敷地内では、子どもから大人まで一日中楽しむことができます。

特に注目されるのが、十津川温泉の湯を利用した室内温泉プールです。温泉成分を含むプールは全国的にも珍しく、遊びながら温泉の効能を体感できる点が魅力です。

また、人力ロープウェイ「野猿」は、川を渡るスリル満点の体験ができる名物アトラクション。足湯も完備されており、遊び疲れた体を優しく癒してくれます。

十津川温泉郷 ― 三つの湯がもたらす癒し

十津川村には、上湯温泉・湯泉地温泉・十津川温泉の三つの温泉があり、これらを総称して十津川温泉郷と呼びます。すべて源泉かけ流しで、自然と一体になれる湯浴みが魅力です。

湯泉地温泉 滝の湯・泉湯

公衆浴場として親しまれる滝の湯や泉湯は、気軽に立ち寄れるのが魅力。木の温もりに包まれた浴場で、硫黄泉の香りとともに心身を解きほぐすことができます。

十津川温泉 ホテル昴

宿泊と温泉を同時に楽しめるホテル昴では、内湯・外湯合わせて7種類の源泉かけ流し温泉を満喫できます。地元食材をふんだんに使った料理も大きな魅力です。

霊性と信仰に触れるスポット

玉置山(たまきやま)

標高1,076メートルを誇る玉置山は、古来より修験道の聖地として知られています。山全体が神域とされ、深い森と厳かな空気に包まれています。山頂付近からは十津川村の山並みを一望でき、早朝には雲海が広がることもあり、幻想的な光景に出会える場所です。

大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)

世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を構成する修験道の行場で、険しい尾根道が続きます。十津川村内にもルートが通り、今なお修験者が歩く信仰の道として大切に守られています。一般の登山者も、歴史を感じながら歩くことができます。

大自然の絶景を楽しむスポット

釈迦ヶ岳(しゃかがたけ)

十津川村を代表する名峰のひとつで、標高1,800メートル級の山々が連なる大峯山脈の中でも存在感を放つ山です。登山道からは原生林や高山植物を楽しむことができ、山頂からの眺望は圧巻です。

笹の滝(ささのたき)

日本の滝百選にも選ばれている名瀑で、落差約32メートル。周囲を覆う原生林と滝音が織りなす景観は、まさに自然の芸術です。遊歩道も整備されており、比較的訪れやすい滝として人気があります。

瀞峡(どろきょう)

国の特別名勝・天然記念物に指定されている峡谷で、十津川村・和歌山県・三重県の県境に広がります。切り立った岩壁とエメラルドグリーンの水面が特徴で、川舟に乗って眺める景色は格別です。

体験型・家族向け観光スポット

野猿(やえん)体験

かつて村人の生活を支えた人力ロープウェイ「野猿」を体験できます。自ら綱を引いて川を渡る体験は、十津川村ならではの貴重な思い出になります。子どもから大人まで楽しめる人気スポットです。

空中の森

樹木の間に張られたネットやツリーハウスを楽しめる自然体験施設です。森の中で体を動かしながら遊ぶことで、自然との距離が一気に縮まります。子ども連れのファミリーに特におすすめです。

歴史と暮らしを学ぶスポット

十津川村教育資料館

廃校となった木造校舎を活用した資料館で、十津川村の教育の歴史や暮らしの変遷を学ぶことができます。昔の教室や教材がそのまま残されており、懐かしさと温もりを感じる空間です。

辻家住宅(つじけじゅうたく)

江戸時代の庄屋屋敷で、県指定有形文化財。山村における豪壮な民家建築を今に伝える貴重な存在で、当時の生活や村の統治の様子を知ることができます。

温泉と癒しのスポット

上湯温泉

十津川温泉郷の中でも、特に秘湯感のある温泉地です。川沿いに湧く源泉かけ流しの湯は、自然と一体になれる開放感が魅力で、温泉好きから高い評価を得ています。

湯泉地温泉郷散策

公衆浴場や旅館が点在する温泉街を、川のせせらぎを聞きながら散策するのもおすすめです。足湯や地元商店に立ち寄りながら、のんびりとした時間を楽しめます。

集落景観と里山の風景

果無集落(はてなししゅうらく)

「天空の郷」とも称される集落で、「にほんの里100選」に選ばれています。石垣と古民家、背後に広がる果無山脈が織りなす景観は、日本の原風景そのものです。

大森の郷

古民家を再生した宿泊施設を中心としたエリアで、里山暮らしの魅力を体感できます。静かな環境の中で、十津川村の自然と文化をじっくり味わえる場所です。

グルメ・特産品を楽しむスポット

あまご・鮎料理店

清流に恵まれた十津川村では、あまごや鮎料理を提供する食事処が点在しています。塩焼きや甘露煮など、素材の味を生かした料理は、旅の楽しみのひとつです。

直売所・道の駅

道の駅十津川郷をはじめ、村内の直売所では、原木しいたけ、きのこ類、柚餅子、木工品など、ここでしか手に入らない特産品に出会えます。

祭りと伝統行事

十津川村では、年間を通じて多彩な祭事や行事が行われます。特に十津川の大踊は、国の重要無形民俗文化財に指定され、盆の時期に各地区で勇壮な踊りが奉納されます。

そのほか、玉置神社の例大祭、国王神社大祭、駅伝大会やマラソン大会など、自然と人が一体となる催しが村の暮らしを彩っています。

心に残る旅へ ― 多彩な魅力が息づく十津川村

十津川村には、世界遺産や名峰、滝や峡谷、温泉、集落景観、体験施設など、数えきれないほどの観光スポットが点在しています。それぞれが単独でも魅力的でありながら、村全体として一つの大きな「物語」を形づくっているのが十津川村の最大の魅力です。

ゆっくりと時間をかけて巡ることで、自然の厳しさと優しさ、人々の知恵と信仰、そして山里ならではの温もりを、より深く感じていただけることでしょう。

Information

名称
十津川村(奈良県)
(とつかわむら)

吉野・天川村・十津川

奈良県