奈良県 > 吉野・天川村・十津川 > 陀々堂の鬼はしり

陀々堂の鬼はしり

(だだどう おにはしり)

火の粉で身を清め、災厄を焼き払う鬼走り

陀々堂の鬼はしりは、奈良県五條市大津町の念仏寺陀々堂において、室町時代より五百年以上にわたり受け継がれてきた伝統行事です。毎年1月14日に行われる修正会結願の儀式として執り行われ、平成7年(1995年)には国の重要無形民俗文化財に指定されました。

全国各地に見られる「鬼走り」は、もともと宮中行事の追儺(ついな)に由来し、悪鬼や疫病を追い払う儀式として伝わっています。しかし、陀々堂の鬼はしりに登場する鬼は、災いをもたらす存在ではありません。阿弥陀如来に仕え、人々に福を授ける善い鬼とされている点が大きな特徴です。鬼が幸福をもたらす祭りは全国的にも珍しく、五條市を代表する冬の風物詩となっています。

念仏寺陀々堂と行事の歴史

念仏寺は鎌倉時代に創建されたと伝わる古刹で、地域の豪族・坂合部氏の氏寺でした。境内に建つ茅葺き屋根の本堂は「陀々堂」と呼ばれ、松明の火の粉で身を清め、災厄を焼き払う「達陀(だったん)の秘法」を行う堂として知られています。

鬼はしりの起源は室町時代中期にさかのぼります。領主坂合部是房の弟である頼澄別当が、東大寺二月堂の修二会にならって始めたと伝えられています。文明18年(1486年)の墨書銘を持つ鬼面や、明応5年(1496年)の記録からも、15世紀にはすでに現在とほぼ同様の形で行われていたことが確認されています。

以来、一度も絶えることなく受け継がれ、地域住民の強い信仰心と結束によって守られてきました。

行事を支える地域の力と準備

鬼はしりは、阪合部郷14地区の人々によって維持運営されています。総代会と保存会が中心となり、役割分担を行いながら準備を進めます。

鬼役は父鬼・母鬼・子鬼の3名。鬼が持つ松明は長さ約1.2メートル、直径約70センチ、重さ約60キログラムにもなります。この巨大な松明を操るため、鬼役は体力と精神力を兼ね備えた人物が務めます。1月8日からは水垢離を行い、別火の精進生活に入ります。行事の安全と成功は、この厳格な精進にかかっているといわれています。

松明づくりも重要な作業です。松根やヒノキ材を用い、燃え方や安全性を考慮しながら丹念に作られます。良質な松根の確保が年々難しくなっているなかでも、伝統の火を絶やさぬよう努力が続けられています。

鬼はしり当日の流れ

昼の鬼はしり

1月14日午後、大般若経の転読法要が行われた後、松明に火を灯さない「昼の鬼はしり」が始まります。本堂内では樫の棒で板壁を打つ「棒打ち」が響き渡り、独特の緊張感に包まれます。

夜の鬼はしり ― 火の祭典の最高潮

午後9時、いよいよ夜の鬼はしりが始まります。護摩が焚かれ、堂内にヒノキの煙が立ちこめるなか、迎え松明を先頭に鬼たちが入堂します。

まず「火伏せの行」が行われ、火天役が燃え盛る松明を振りかざし、火の安全を祈願します。その後、父鬼(赤鬼)、母鬼(青鬼)、子鬼(茶鬼)が次々に登場。法螺貝や太鼓、棒打ちの激しい音響を背景に、堂内を三度巡ります。

炎は堂内を赤々と照らし、火の粉が舞い上がります。参拝者はその火の粉を浴びることで災厄が払われると信じ、堂内は熱気と祈りに包まれます。

三度の巡行を終えた鬼たちは、水天井戸へ向かい松明を沈めて火を消します。これにて神聖な儀式は幕を閉じます。

鬼面の文化財的価値

昭和35年まで使用されていた鬼面は、15世紀制作の榧材による貴重な作例で、「陀々堂の鬼面」として奈良県指定有形民俗文化財に指定されています。父鬼面は全長約60センチにも及び、重さ約4.5キログラムという堂々たる造形です。

現在は保存のため別面が使用されていますが、歴史的価値の高さからもこの行事の重みがうかがえます。

修正会結願と祈りの意味

修正会とは、五穀豊穣や無病息災を祈る年頭の仏教行事です。念仏寺では阿弥陀悔過法会として執り行われ、過去の罪を悔い、新たな一年の幸福を祈願します。

鬼はしりは単なる火祭りではなく、地域の人々の祈りと信仰が凝縮された神聖な儀式なのです。

アクセスと観覧のご案内

会場は奈良県五條市大津町127の念仏寺です。JR和歌山線五条駅からデマンドタクシー利用、または車では国道24号から阪合部橋を渡って向かいます。周辺の駐車場は限られているため、上野公園駐車場の利用が推奨されています。

厳寒の中で行われる幻想的な火の祭典は、初めて訪れる方に強い感動を与えます。五百年続く伝統と地域の誇りを体感できる貴重な行事として、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

あわせて楽しみたい五條市の魅力

五條市は「日本一の柿のまち」として知られ、市内には柿博物館があります。また、郷土料理の柿の葉寿司も人気です。鬼はしりとあわせて、五條の食と文化にも触れてみてください。

Information

名称
陀々堂の鬼はしり
(だだどう おにはしり)

吉野・天川村・十津川

奈良県