慈光院は、奈良県大和郡山市小泉町に所在する臨済宗大徳寺派の禅寺です。山号は「円通山」、本尊には釈迦如来を祀り、江戸時代の茶人として知られる片桐石見守貞昌(かたぎりいわみのかみさだまさ)—通称「片桐石州(せきしゅう)」によって創建されました。彼は石州流茶道の開祖でもあり、茶道と禅が融合する場として慈光院を築きました。
慈光院は、寛文3年(1663年)、片桐石州が父・片桐貞隆の菩提を弔うために建立した寺です。開山には、臨済宗大徳寺185世・玉舟和尚(ぎょくしゅうおしょう、大徹明應禅師)を迎えました。寺の名前は、父の法名「慈光院殿雪庭宗立居士」に因んで名づけられました。単なる供養の場としてではなく、禅と茶を融合させた精神文化の殿堂として、今もその精神が息づいています。
慈光院の中心となる建物は、書院であり、国の重要文化財に指定されています。外観は農家風の質素な趣きを持ちながら、内部は上品で落ち着いた設計がなされています。入母屋造茅葺屋根に桟瓦の庇をめぐらし、十三畳の「上の間」と「中の間」、「下の間」から構成されます。
上の間には、床の間や付書院が設えられていますが、長押(なげし)は省略され、全体に簡素で軽やかな意匠が特徴です。特に、天井や鴨居を低く設計することで、座ったときに感じる安心感と親密な空気が演出されています。書院からは奈良盆地を一望でき、庭園と借景が織りなす景観が格別です。
慈光院にある茶室「高林庵」もまた、重要文化財に指定されており、石州の好みによって設計された二畳台目の小間席です。この茶室では、亭主の点前座を床前に配置する「亭主床」の形式が採用され、質素ながらも洗練された美が感じられます。
山門である茨木門は、徳川家康の一国一城令により取り壊された石州の出生地・摂津茨木城の楼門を移築したものです。現在では屋根を茅葺きに改め、慈光院の象徴的な入口となっています。門をくぐると、静寂な空間が広がり、訪れる人々を茶と禅の世界へといざないます。
慈光院の庭園は、国の名勝および史跡に指定されています。白砂が敷かれた庭には、ツツジなどの低木が美しく刈り込まれ、背後には奈良盆地の雄大な眺望が広がります。これは「借景(しゃっけい)」という手法で、遠景を取り込み、庭の奥行きと静謐さを強調するものです。書院から眺めるこの景色は、訪問者の心を穏やかにし、禅の世界へと導いてくれます。
慈光院には、片桐石州が自らのために作った木像が安置されています。これは彼が34歳の時に制作し、大徳寺内の「高林庵」に祀っていたものです。その後、廃仏毀釈の影響により高林庵が廃寺となったため、慈光院に移され今日に至ります。
拝観時間:午前9時~午後5時(年中無休)
拝観料:1,000円(抹茶・茶菓子の接待を含む)
慈光院は、ただの古寺ではありません。片桐石州の美意識と精神が今もなお生き続ける場であり、禅と茶が見事に融合した空間です。文化財としての価値だけでなく、訪れる人々の心を静かに整えてくれる、現代にこそ必要とされる癒しの場所と言えるでしょう。歴史、建築、庭園、茶の湯に興味がある方はもちろん、静けさを求めるすべての人におすすめの名刹です。