奈良県大和郡山市矢田町に位置する「矢田寺」は、正式には「金剛山寺(こんごうせんじ)」と称し、高野山真言宗に属する歴史ある寺院です。山号は矢田山。本尊は地蔵菩薩で、その優しいお姿は訪れる人々に安らぎを与えています。特に6月には約10,000株・60種以上のあじさいが境内を彩り、「あじさい寺」として全国に知られています。
京都市中京区にも「金剛山矢田寺」という同名の寺院がありますが、そちらは奈良の矢田寺から派生した別院として、奈良時代初期に開かれたとされています。現在は宗派が異なるため、混同にご注意ください。
寺伝によると、壬申の乱の戦勝を祈願して大海人皇子(のちの天武天皇)が矢田山に登り、戦勝後の天武天皇5年(676年)、勅願により高僧・智通が創建したと伝えられています。当時は七堂伽藍と48の僧坊が整備され、十一面観音菩薩と吉祥天が祀られました。
平安時代の弘仁年間(810~824年)、満米上人によって地蔵菩薩が安置されると、矢田寺は地蔵信仰の拠点として多くの信仰を集めるようになりました。その後、幾度かの戦乱により伽藍の多くは焼失しますが、現在も4つの塔頭(北僧坊・南僧坊・大門坊・念仏院)が残され、矢田寺として信仰が続いています。
大門坊は華道・容眞御流の家元でもあり、境内では華道研究も盛んに行われています。伝統文化と仏教が融合した落ち着きある雰囲気が特徴です。
矢田寺の地蔵菩薩は、右手が阿弥陀如来の来迎印に似た形をしていることから、「矢田型地蔵」と呼ばれています。この珍しい姿は、地蔵信仰の象徴として多くの参拝者の心を捉えています。
矢田寺には数多くの文化財が存在します。特に以下の建物や仏像は必見です。
矢田寺には4つの塔頭があり、それぞれが独自の文化と信仰を守り続けています。
矢田寺は、以下の霊場巡礼にも含まれています。
第5番札所:長岳寺(第4番)と當麻寺中之坊(第6番)の間に位置します。
第55番札所:周辺の松尾寺や阿弥陀院とともに巡礼可能です。
第7番札所:6番の霊山寺、8番の聖林寺と並び、地蔵信仰の巡礼地として親しまれています。
6月のあじさいシーズンには、近鉄郡山駅・法隆寺駅から臨時バスが運行される年もあります(2024年は運行なし)。
矢田寺は、奈良の静かな山里に佇む歴史と自然が融合した寺院です。特にあじさいの時期には、多くの参拝者と観光客で賑わい、境内に咲く多種多様なあじさいが訪れる人々を魅了します。地蔵信仰の聖地としての尊厳と、花の寺としての美しさを兼ね備えた矢田寺を、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。