奈良県 > 明日香・橿原 > 箸墓古墳

箸墓古墳

(はしはか こふん)

日本最古の前方後円墳

日本古代史の幕開けを告げる巨大前方後円墳

箸墓古墳は、奈良県桜井市箸中に所在する、日本列島における最古段階の前方後円墳として広く知られる古墳です。別名を箸中山古墳(はしなかやまこふん)ともいい、考古学・歴史学の両面から、日本古代国家形成を考えるうえで極めて重要な存在とされています。

現在、この古墳は宮内庁により「大市墓(おおいちのはか)」として管理され、第7代孝霊天皇の皇女である倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそひめのみこと)の墓に治定されています。一方で、古くから邪馬台国の女王・卑弥呼の墓ではないかという説もあり、今日に至るまで活発な議論が続けられています。

纒向遺跡と箸墓古墳の位置づけ

箸墓古墳は、奈良盆地東南部、三輪山北西麓の扇状地に広がる纒向(まきむく)遺跡の中核をなす存在です。周辺にはホケノ山古墳や纒向勝山古墳など、古墳時代初頭の重要遺跡が集中しており、この一帯は「大和・柳本古墳群」あるいは「纒向古墳群」と総称されます。

その中でも箸墓古墳は、規模・構造・立地のすべてにおいて群を抜く存在であり、纒向地域における盟主的古墳と考えられています。この巨大古墳の出現は、それまでの地域的首長墓とは一線を画し、広域的な権力の成立を強く示唆しています。

古墳の規模と墳形の特徴

箸墓古墳は、全長約278メートルを誇る巨大な前方後円墳です。後円部の直径は約150メートル、高さは約30メートルに達し、前方部も幅約130メートル、高さ約16メートルという壮大な規模を持っています。その総土量は約37万立方メートルと推定され、当時の社会が有していた組織力・動員力の大きさを如実に物語っています。

墳形の最大の特徴は、前方部先端が大きく扇状に開く撥(ばち)型の形状です。この形式は、古墳時代初頭に特有のものであり、箸墓古墳が極めて早い段階に築造されたことを示す重要な根拠となっています。

築造年代をめぐる諸説

箸墓古墳の築造年代については、長年にわたり多くの議論が行われてきました。周濠から出土した土師器や炭素14年代測定の結果から、3世紀中頃から後半とする説が有力視されています。この時期は、邪馬台国の女王・卑弥呼の没年(248年頃)と近接しており、卑弥呼墓説を支持する根拠の一つとなっています。

一方で、炭素年代測定には誤差が生じやすいこと、墳形が『魏志倭人伝』の記述と必ずしも一致しないことなどから、4世紀初頭以降とする慎重な見解も存在します。現在では、箸墓古墳が古墳時代の幕開けを象徴する存在であることには異論がないものの、被葬者の特定については決定的な結論には至っていません。

倭迹迹日百襲姫命と箸墓の名の由来

箸墓古墳の名は、『日本書紀』に記された倭迹迹日百襲姫命の伝説に由来します。百襲姫命は三輪山の神・大物主神の妻とされ、ある夜、神の正体を確かめようとしたことで悲劇的な最期を迎えたと伝えられています。

物語によれば、正体を見られたことを恥じた大物主神が三輪山へ去り、百襲姫命は深く悔いて箸で陰部を突いて命を落としたとされます。この伝説により、彼女が葬られた墓は「箸墓」と呼ばれるようになりました。神話的要素を含むこの逸話は、箸墓古墳が単なる墓ではなく、古代人の信仰や世界観と深く結びついた存在であることを示しています。

卑弥呼の墓説と学術的意義

箸墓古墳が卑弥呼の墓ではないかという説は、大正時代に考古学者・笠井新也によって提唱され、現在に至るまで多くの研究者を惹きつけてきました。後円部の直径が『魏志倭人伝』に記される「径百余歩」という記述と合致する可能性がある点、築造時期が3世紀後半と重なる点などが、その根拠とされています。

しかし一方で、墳丘があまりにも巨大であること、前方後円墳という形式が文献記述と一致しないことなど、反論も数多く存在します。そのため現在では、「証明は困難だが、可能性を完全には否定できない」という立場が主流となっています。

外観・周濠と現在の保存状況

箸墓古墳は現在、墳丘への立ち入りはできませんが、周囲を巡ることでその壮大さを十分に体感することができます。周濠の一部は「箸中大池」として整備され、ため池百選にも選ばれています。水面に映る墳丘の姿は美しく、四季折々の景観とともに訪れる人々を魅了します。

2017年には周濠部分が国の史跡に指定され、文化財としての保護も強化されました。箸墓古墳は、古代日本の成立を今に伝える貴重な遺産として、未来へと大切に受け継がれています。

文化的価値と保護

箸墓古墳は、古墳時代の文化と権力の象徴であり、その価値から「古墳群」として2019年にユネスコの世界文化遺産に登録された「百舌鳥・古市古墳群」の一部とされています。これは、日本の古代文化の重要な証拠として世界的に認められたものであり、訪れる人々にその壮大さと歴史の深さを感じさせます。

アクセス情報

箸墓古墳へのアクセスは、JR万葉まほろば線の「巻向駅」から徒歩約10分で到着します。周辺には他にも多くの古墳や歴史的な遺跡が点在しており、古代の日本に思いを馳せる絶好のスポットです。また、春には美しい桜が古墳を彩り、訪れる人々を魅了します。

観光と歴史探訪の拠点として

箸墓古墳は、三輪山や大神神社、纒向遺跡群とあわせて訪れることで、より深く古代大和の世界を感じることができます。日本最古級の巨大古墳を目の前にすると、文献や教科書では得られない、圧倒的な歴史の実感を味わうことができるでしょう。

神話と考古学、伝説と科学が交差するこの地は、古代史に興味を持つ人はもちろん、初めて訪れる観光客にとっても、強い印象を残す特別な場所です。

Information

名称
箸墓古墳
(はしはか こふん)

明日香・橿原

奈良県