室生龍穴神社は、奈良県宇陀市室生に鎮座する、非常に古い歴史をもつ神社です。水の神・竜神を祀る神社として古来より信仰を集め、正式には「龍穴神社」と称されます。御祭神は高龗神(たかおかみのかみ)で、雨を司る神として知られ、農耕と深く結びついた信仰が今日まで受け継がれています。
室生龍穴神社は、近隣にある名刹・室生寺よりも古い起源をもつとされ、奈良時代から平安時代にかけては、朝廷より雨乞いのための勅使が派遣された記録も残っています。このことからも、国家的な祈雨の聖地として重視されていたことがうかがえます。かつて室生寺は、この神社の神宮寺としての役割を担っていた時代もあり、神仏習合の歴史を今に伝える存在でもあります。
神社は室生寺から東へ約1キロメートル、室生川をさかのぼった静かな山あいに位置しています。鳥居の前には、樹齢600年以上と伝えられる二本の巨大な杉がそびえ立ち、まるで参拝者を迎え入れ、同時に神域と俗世を分かつ結界のような存在感を放っています。
境内に足を踏み入れると、さらに多くの杉の巨木が天を突くように立ち並び、厳粛で神秘的な空気に包まれます。自然そのものが信仰の対象であることを実感させる空間は、訪れる人の心を静かに整えてくれます。
現在の本殿は、春日造りの社殿で、江戸時代の寛文11年(1671)に、奈良の春日大社若宮の社殿を移築したものです。その建築的価値の高さから、奈良県指定文化財に指定されています。簡素ながらも端正な佇まいは、周囲の自然と美しく調和し、長い年月を経ても変わらぬ信仰の姿を今に伝えています。
高龗神は雨乞いの神として広く知られていますが、近年では、清らかな水が万物を結び育むことから、縁結びの神としても信仰を集めています。人と人との縁はもちろん、自然や土地とのご縁を大切にしたいと願う参拝者が多く訪れます。
神社のさらに奥、山中へ進んだ場所には、竜神が棲むと伝えられる妙吉祥龍穴(みょうきっしょうりゅうけつ)があります。ここは室生龍穴神社の奥宮にあたり、室生寺建立以前から雨乞いの祈祷が行われてきた、極めて神聖な場所です。
洞穴の前には、室生山から流れ出る清水が、まるで龍の姿を思わせるように曲がりくねって流れています。一帯は古代から磐境(いわさか)、すなわち神が鎮座する場所とされ、日本三大龍穴のひとつに数えられています。その中でも、実際に目にすることができる唯一の龍穴として、特別な存在です。
毎年10月に行われる秋祭りでは、五穀豊穣や魔除けを祈願する神事が執り行われます。御幣を掲げ、室生寺内の天神祠と龍穴神社を巡る「お渡り」の儀式に続き、雄獅子と雌獅子の二頭による室生の獅子舞が奉納されます。この獅子舞は、奈良県指定無形民俗文化財にも指定されており、地域に受け継がれてきた貴重な民俗芸能です。
室生龍穴神社は、社殿や祭礼だけでなく、周囲の山々や清流、巨木までもが信仰の対象となる、まさに自然信仰の原点ともいえる神社です。静寂に包まれた境内と、奥深い山中にひそむ龍穴は、訪れる人に古代から続く日本人の自然観と祈りの心を静かに語りかけてくれます。