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葛城古道

(かつらぎ こどう)

神話と歴史が息づく西の古代回廊「葛城の道」

葛城古道は、奈良県御所市を中心に、金剛山と葛城山の東側山麓に沿って南北に延びる、全長約13キロメートルの歴史ある古道です。「葛城の道」とも呼ばれ、大和平野東部を走る山の辺の道に対し、「西の山辺の道」として知られています。現在の国道24号線が整備される以前、この道は地域を結ぶ重要な幹線路として、人や物、信仰を運んできました。

葛城氏と鴨氏 ― 古代豪族の本拠地を貫く道

葛城古道が通る一帯は、5世紀末頃に勢力を誇った古代豪族葛城氏の本拠地であり、日本史においても重要な地域です。葛城氏が台頭する以前、この地は鴨氏の拠点として栄えており、古道沿いにはその名残を伝える神社が今も数多く点在しています。

高鴨神社、鴨都波神社、鴨山口神社など「」の名を冠する社と、葛城坐一言主神社、葛城水分神社、葛木坐火雷神社など「葛城」を名に持つ社が混在することは、この地域が古代信仰の重なり合う特別な場所であったことを示しています。

神々のふるさと ― 山麓に広がる神話の舞台

葛城古道の最大の魅力は、日本神話の舞台を実際に歩いてたどれる点にあります。金剛・葛城連山の扇状地に広がる田園地帯には、農耕文化の始まりを感じさせる遺跡や、神話と結びついた社寺が点在し、歩くごとに時代を遡るような感覚を味わえます。

特に高天彦神社が鎮座する高天の台地一帯は、天照大神が統治したとされる高天原の伝承地とされ、葛城氏の最高神である高皇産霊尊(たかみむすびのみこと)を祀る神聖な場所です。天孫降臨の神話とも深く関わり、日本神話の核心に触れられる地として、多くの人を惹きつけています。

葛城古道の歩き方 ― 御所市を縦断する歴史散策

葛城古道は、近鉄御所駅付近を起点または終点として歩くのが一般的です。近鉄御所駅から西へ進み、六地蔵石仏を目印に南へ折れると、やがて視界が開け、のどかな田園風景と大和平野の眺望が広がります。

九品寺を過ぎるころから道は徐々に細くなり、古道らしい趣が増していきます。杉木立の間には、第2代綏靖天皇ゆかりとされる高丘宮跡の碑がひっそりと立ち、古代の王権と葛城の地との関わりを静かに伝えています。

名柄集落と橋本院 ― 古民家と山岳信仰の世界

趣ある古民家が並ぶ名柄集落は、名柄街道と水越街道が交差する交通の要衝として栄えた場所です。中でも中村家住宅は、慶長年間に建てられた代官屋敷で、国の重要文化財に指定されています。堂々とした佇まいは、江戸時代の地域支配の様子を今に伝えています。

名柄集落を抜けて山道を登ると、行基が創建し鑑真和上が再興したと伝えられる橋本院に至ります。この周辺は高天原伝承地の中心で、深い杉林に包まれた道は、まさに神話の世界そのものです。

高天彦神社と高鴨神社 ― 古代信仰の核心

葛城古道の中核をなすのが、高天彦神社高鴨神社です。高天彦神社は葛城氏の祖神・高皇産霊神を祀り、老杉に囲まれた境内は厳かな雰囲気に満ちています。飲食店や自動販売機が少ない古道沿いにあって、屋根付きの休憩所が整備されている点も、参拝者にとって嬉しい配慮です。

一方、高鴨神社は全国の鴨(加茂)神社の総社であり、京都の上賀茂神社・下鴨神社の源流とされます。弥生中期から祭祀が行われてきた、日本最古級の神社の一つで、本殿は国指定重要文化財。春にはニホンサクラソウが境内を彩り、信仰と自然美を同時に楽しめます。

一言主神社と九品寺 ― 祈りが交差する場所

葛城一言主神社は、「一言ならどんな願いも叶える」と信じられる一言主神を祀り、地元では「いちごんさん」として親しまれています。境内には樹齢1200年を超える大イチョウや蜘蛛塚などの見どころがあり、神話と民間信仰が融合した独特の空気が漂います。

九品寺は、奈良時代に行基が開き、後に空海が中興した名刹で、1,800体を超える石仏が並ぶ「千体石仏」で知られています。藤原時代作の阿弥陀如来坐像(重要文化財)や回遊式庭園・十徳園など、見どころが多く、古道歩きの中でも特に印象深い立ち寄り地です。

六地蔵石仏 ― 災害と信仰の記憶

葛城山麓に佇む六地蔵石仏は、室町時代の土石流によって流れ着いたと伝えられる巨石に彫られています。兄川の氾濫など度重なる自然災害に苦しめられた村人が、六道の衆生を救う仏教の教えにすがり、極楽往生を願って刻んだとされ、地域の信仰心の深さを物語っています。

自然と眺望 ― 山裾を歩く贅沢な時間

葛城古道は、史跡巡りだけでなく、豊かな自然と眺望を楽しめる散策路でもあります。金剛山・葛城山の雄大な稜線を仰ぎながら歩く道では、四季折々の風景が旅人を迎えてくれます。春の新緑、夏の深い緑陰、秋の紅葉、冬の澄んだ空気と眺望は、何度訪れても新たな魅力を発見させてくれるでしょう。

葛城古道の魅力 ― 歩いて感じる古代日本

葛城古道は、単なるハイキングコースではなく、日本神話・古代史・農耕文化・信仰が重層的に息づく、生きた歴史の道です。山裾に連なる社寺や集落を一つひとつ巡りながら歩くことで、古代から現代へと続く人々の祈りと暮らしを、身体で感じることができます。

静かな田園風景の中で神話に思いを馳せ、山々の眺望に心を解き放つ――葛城古道は、そんな贅沢な時間を与えてくれる、奈良を代表する歴史散策路といえるでしょう。

Information

名称
葛城古道
(かつらぎ こどう)

明日香・橿原

奈良県